親知らずの抜歯手術、そして入院期間を終え無事退院することができましたので、記憶が色褪せないうちに入院から退院までの出来事を書きたいと思います。
当初の予定では、ブログ仲間であるkent_225さんの命名してくださった「THE 第八歯」という題名の、『親知らずまとめドキュメント』を書こうと思っていたのですが、退院後も完治まではほど遠いこともありますので、今回は入院中のことのみにスポットをあてて書こうと思います。
kentさんごめんなさいm(_ _)m
長文ですので、お時間のあるときにごゆっくりお読みいただければ幸いです。
それでは、僕の入院から退院までの6日間を2回に分けて綴ってゆきます。
第一章 入院
3月3日、午前8時起床。
ここ数日、微熱と下痢が続いており、今朝も変わらずそんな調子。これから入院して手術を行う上で、不安の残る体調であるが、とりあえず午前10時の入院に合わせ、身支度を開始。
テレビをつけるとひな祭りの話題。
男には縁のないひな祭りだが、これから毎年訪れるひな祭りで、今日のこの憂鬱な気分を思い出してしまいそうな気がした。
9時前、前日から準備していたバッグを持ち、バスを乗り継いで病院へ向かう。
10時前、予定通り病院へ到着。入院受付で入院誓約書をはじめ、何枚か各種書類を書き、入院保証金10万円を預ける。
「もうすぐ看護師が迎えに来ますので、お待ちください」
と言われ、しばしイスに座って待つ。
確か、生まれて間もない頃に入院したことがあった。でもそんな記憶は全くないので、今回の入院は人生初と言っても間違いではないだろう。
部屋は4人部屋。どんな雰囲気なんだろうか。
いろいろ考えていると、看護師さんが迎えに来た。
案内されるがまま、6階の病室へ。
窓側のベッドはすでに埋まっていたので、手前のベッドならどちらでもいいですよと言われ、適当に選び荷物を降ろす。今のところ、他の患者さんはいないようだ。診察中かな?
荷物からスリッパを出し、その他もろもろ色々引っ張り出していると、先ほどの看護師さんが早速検温に来た。測ってみると37.5℃。やっぱり微熱は続いている。
「風邪ですか?」と聞かれたが、原因がよくわからないので、「たぶん風邪かもしれません」と、よくわからない曖昧な回答を返す。
その後右手首に入院患者用のバンドが付けられた。これで俺も晴れて病人(笑)
さて、これから何をしようか・・・。なんせ今日はずっと寝てなきゃいけないような体調でもないし、かといって外出できるわけでもない。
ヒマだ・・・。
とりあえず備え付けのテレビを見るため、テレビのプリペイドカードを買いに行く。
カードを買って部屋に戻ると、誰かがいた。
見た感じ、俺と同じタイミングで入院したっぽいけど・・・?
こんにちは、と挨拶を交わす。彼のことはMさんと呼ぶことにしよう。
話を聞くと、やはり今日入院で、俺と同じく歯の手術を受けるそうで。しかも同じく全身麻酔。
ただ、Mさんは親知らずではなく、上の歯茎に広がってしまった膿の袋、嚢胞(のうほう)を摘出する手術とのこと。確か俺にも、左下の親知らず付近に嚢胞がある。
お互いがんばりましょうと元気付け、各自のベッドへ戻った。
その後はテレビを見たり、ニンテンドーDSをやったり、ベッド上でゴロゴロと過ごす。
正午を過ぎ、お昼ごはんが運ばれてきた。
入院して初の食事。おかずは白身魚、そしてインゲンのゴマ和え、ヨーグルト。右下の醤油さしみたいな容器に入った液体はお茶である。
最初コレの使い方が全然わからなかったが、ただ吸えばいいだけのものだった。いわゆる「吸い飲み」という容器らしい。
おなかがすいていたのですぐさま完食。
それにしても物足りない・・・。まぁ、病院食だから無理もないな。
食事を食べ終え、またヒマな時間を過ごす。
しばらくすると、向かいのベッドにおじいちゃんが入ってきた。
これで4人部屋はあっという間に満室となった。
面会に来てるのは息子さんだろうか。
内科の先生と3人で話している。
このときは、普通のおじいちゃんだと思ったんだけどなぁ・・・。
午後3時を過ぎ、ベッドに横になってボーッとしていた俺は、いつのまにか寝ていた。ふと目が覚めると、向かいのおじいちゃんと目が合う。
その直後、「ちょっとすいませ~ん」と呼ばれる。
ん?なんだなんだ?とおじいちゃんのとこへ行くとビックリ!
自分の腕から点滴を引っこ抜いたらしく、腕とベッドが血まみれではないですかッ!!
その様子を察したのか、すぐに看護師さんが来ておじいちゃんを注意する。
う~ん、なんだかめんどくさい人が向かいにきちゃったかも・・・。
しかしおじいちゃんも負けてはいなかった。その後2回点滴を引っこ抜くイタズラをかまし、看護師さんに激しく怒られ、しまいにはベッドに縛り付けられ、動きを拘束されてしまった。
ま、当然だよな・・・。
そんなおじいちゃんと看護師のやり取りを聞きながらまたボーっと過ごすと、夕方5時をまわっていた。廊下にガラガラガラー・・・と、カートの音が鳴り響き、夕食が運ばれてきた。
サーモンのフライと春雨サラダ、そしてフルーツ。
昼とは逆に、なんかあんまり食欲がなかったので、半分くらい残してしまった。
夕食中、さきほど体を拘束されたおじいちゃんが、ずっと俺に助けを求めて来ていたので、それも食欲を失う要因だったのかもしれない。
「たすけてくだ~い、これとってくださ~い、死んじまうよ~・・・・」
とずっと俺に向かって助けを求めている。
さすがに途中からカーテンを引き、シャットアウト(笑)最初からこうしとくべきだった。
夕食後、看護師さんが来て検温。
まだ少し微熱アリ。ただ、一日ゆっくりしてたせいか少し下がったかな?
消灯は9時だそうで。
夜はテレビがおもしろいので、それまでテレビを見て過ごす。
テレビを見ながら、明日の今頃は激痛で苦しんでるんだろうなぁ・・・、とか考えてしまい、さらに鬱になる。しかし、ここまで来たらもうあとは突っ走るのみ。耐え抜くしかないのだよ。
そう自分に言い聞かせる。
ふと、入院時もらったファイルを開け、入院診療計画書に目を通す。
症状:埋没歯・顎骨嚢胞
病名:下両側第八歯 水平埋没・顎骨嚢胞摘出
治療計画:全身麻酔下に抜歯
わかりやすくイラストで書くと、下のような感じ。
要は、アゴの神経と重なって生えている親知らずなので、全身麻酔で実施した方が安全かつ安心ってこと。それと左下に膿の袋(嚢胞)もあるので、それも同時に摘出するとのことだった。
右側を抜歯後、奥歯は事実上根っこが欠損するカタチとなってしまうので、そこには「アテロコラーゲン」という骨を形成する組織を注入すると、先生は言っていた。
ファイルを閉じ、気を強く持った。
まもなく9時。部屋の電気が消された。
同時に、明日の手術にそなえ、9時から手術終了まで、絶飲食となる。
乾燥しきった病室で、水さえ飲めないのはけっこうキツそう・・・。
さて、健康に眠れる夜は、今夜でしばしおあずけとなるのだろうか。
こうして、入院生活一日目の夜は更けていった・・・。
第二章 手術
午前6時、部屋の電気がつけられる。
「おはよーございまーす!」と看護師さんが元気よく検温やらを始めた。
病院の朝は早い・・・。
入院2日目の朝を迎えた。
ゆうべは、向かいのおじいちゃんが夜中に大騒ぎをしたせいで何回か起きたが、耳栓をつけていたお陰で、まずまずよく眠れた。
ただ、水を飲めないので口がカラカラなのがツライ。
看護師さんが俺のとこへ来て、熱と血圧を測る。
熱は36.8℃に落ち着いていた。これなら手術も問題なくできそうだ。
この日は10時から点滴が始まった。
全身麻酔前の補助的な薬だそうだ。
そういえば、点滴を受けるのも人生初だ。
ここから数日はしばらくこの点滴と共に行動することとなるであろう。
左側の点滴は、人によって副作用が出るらしく、看護師さんが5分おきに俺の様子を見たり、血圧を測ったりして、なんだか大変そう。
点滴開始から30分、俺に異常がないことを確認すると、次に看護師さんは俺にストッキングをはかせてきた。このストッキングは医療用のもので、血栓を予防するものなんだとか。いわゆる、世間一般で売られているむくみ防止ストッキングと同じようなものだろう。
正午を過ぎ、点滴が交換される。
同時に、看護師さんが持ってきた「手術着」なるものに着替えさせてもらった。
あぁ、いよいよだなぁ・・・と緊張してくる。
そんな俺の様子を見てか、看護師さんが気を使って話しかけてくれた。
「手術は初めて?」
と、聞かれ「はい、そうです」と答える。
「大丈夫だよ、手術自体は寝てる間にすぐ終わっちゃうからさ」
と、安心させてくれた。
午後1時15分、いよいよ手術室へ移動開始。
・・・と、その前に渡された「手術帽」をかぶり、髪の毛を覆い隠す。
「うん、似合ってるよ!カッコイイカッコイイ!」
と言われ苦笑いを浮かべる俺。
ベッドごとガラガラ移動されるのかと思いきや、行きは看護師さんと共に徒歩で向かった。
エレベーターで3階へ降り、大きな自動ドアを3回くらいくぐっただろうか。
想像してたよりも全然広い手術室が目の前に広がる。
室内にはモンパチ(モンゴル800)の曲が流れていて、いささかも堅っ苦しさを感じさせない雰囲気であった。
こちらへ寝てください、とこれまた想像よりはるかに小さい手術台(?)に寝かされる。
寝かされると、手術室の代表格、デッカイ丸いライトが視界に入り、思わずランプの数を数えてしまった。12個くらいライトがついていたと思う。
「それでは、これから色々と準備しますので、楽にしててください」
と担当の先生に言われるものの、上を向いたまま終始緊張気味であった。
手足が固定され、電気毛布をかけられ血圧計をつけられ、胸に心電図の吸盤、顔にはマスクをあてがわれ、指には脈をとる洗濯バサミみたいのをつけられた。みなさん手際よく手術の準備を進める中、緊張でガチガチの俺。
すると、麻酔科の先生が視界に現れた。
「こんにちは、麻酔科の野村と申します。」
とご丁寧な挨拶をいただき、全身麻酔について簡単に説明された。
まず、特殊な点滴によって気分を完全にリラックスさせた後、眠くなるガスを吸って全身麻酔に入るとのことだった。
「けっこう緊張されているようなので、早めに点滴の方入れちゃいましょうね」
と、気を使ってくれて、まずは第一段階の点滴が投入された。
「だんだんと気分が変わってくると思います」
と聞いて、ぼーっと上を見ていると、20秒後くらいにガツーンと効いてきた。
緊張が一気に解け、意識がどんどん遠のいていく。
しかしこれは不快なものでなく実に心地いい。
「だいぶ変わってきましたかぁ?」
という麻酔科の先生の声も遠くに聞こえた。
そのうち目もあけていられなくなる。
「それでは、眠くなるガスを入れますね~。それと同時に肩の辺りにちょっと注射をしますんで、チクッとするかもしれませんが、もうたぶんその頃には寝てると思いますので、大丈夫ですよ~」
と、説明されたが、もはや俺には返事すらできない。
・・・・あぁ・・・・・。
寝るまでの時間をカウントしようと思ってたのに・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
第三章 麻酔からの覚醒
・・・・・・・・。
・・・・・・・・さぁん・・・・。
・・・・・・tsukiさぁん・・・!
matsukiさぁ~ん!
俺の名を呼ぶ声が聞こえ、少しずつ目を開けた。
「終わりましたよ~。早かったです!」
と担当の先生の声がした。
・・・終わった?
・・・・・なにが終わったんだ・・・・・??
・・・・あぁ、そうだった。
そういえば手術してたんだ。
終わったのか~、よかった・・・。
その直後、鼻からチューブが一気に引き抜かれたような感じがして、「おえっ」となった。このとき、人工呼吸器のチューブがはずされたんだと思う。
まだ意識が完全に戻ってない中、手術台からベッドに移され、病室に運ばれていく俺。手術室から出るとき、壁の時計を見たら、3時15分を指していた。
あれ・・・3時からは俺の隣のMさんが手術のハズだったのに・・・。
ちょっと俺の手術・・・・大変だったのかなぁ・・・・。
と、薄い意識の中でも、しっかりモノを考えていた記憶がある。
それから、2時間の記憶が全くない。
おそらく病室で深い眠りについていたのだろう。
目が覚めると5時になっていた。頭からアゴにかけて包帯でグルグル巻き。口には酸素マスクが当てられ、足元には湯たんぽがおかれていた。ちょっと体を起こそうとしてみたが、体を動かすとなんかまだ気分が悪いので、じっとしていた。
すると、ちょうど執刀してくれた先生が来た。
「どうですか?やっぱり唇とか痺れますか?」
と、俺の唇に触れてきた。
俺はこのとき初めて自分の唇とアゴに痺れが残ったことを知った。
「ちょっとしばらく残るかもしれないね」
と、言われた。もっと激しく痺れるものなのかと思ったら、触れられないと気づかないくらいだったので安心した。
6時になり、だいぶ意識が回復してきて、酸素マスクも外された。
そのうち、会社の人がお見舞いに来てくれた。
頭に包帯をグルグル巻きにしてる様子を見て、さすがに驚いているようだったが俺自身会話もできたので、安心してくれているようだった。
←手術直後の俺の様子(同僚撮影)
この時点で会話ができるということに、俺は不思議さを感じていた。
術後は激痛で絶対死んでるだろうという自分の想像が、いい方向へ裏切られたのだ。でも、もしかしたらまだ口の中の麻酔が効いてるだけなのかもしれない、と思い変な期待はしないことにした。
7時になり、お見舞いに来てくれた同僚も帰ると、トイレへ行きたくなったのでナースコールを押した。術後トイレに行くときは必ず呼んでくださいと言われたので。
ベッドから起き上がる。全身麻酔後、初めて起き上がったが、体調は良好でフラツキもなく、しっかりとした足取りでトイレに向かう自分を感じることができ、ちょっと安心。看護師さんも安心したようだった。
その後、もう一度先生が回診に訪れた。
先生は小瓶を俺に見せて、
「これが左下から摘出した嚢胞です」
と言った。
俺は小瓶を手に取りそれをじっくり見る。
ホルマリン漬けになっていたそれは、バナナっぽい色のまさに「膿」であった。
こんなのが歯茎の中にあったのかと思うと気持ちが悪い。
それと、
「そろそろ麻酔が切れてくる頃なので、鎮痛剤を飲んだほうがいいかもしれません」
と言われ、痛む前に鎮痛剤を服用した。
すると、やっぱり寝る前くらいに傷口が疼くように痛み出した。
でも、さっき鎮痛剤を飲んでいるので、それのお陰か、寝れないほどの痛みではなく、ひとまず安心。
しばらくはこのボルタレンという鎮痛剤が手放せない生活となりそうだ。
なにはともあれ、手術は終わった。
これから先、さらに険しい道となるか、それとも後は下り坂となるか、この時点ではまだわからなかった。
後編へ続く...