昨日仕事の後に、うちの部署の新人歓迎会をやった。
新人歓迎会と言っても、部署全体でやるような大掛かりのものではなく、6人ほどでささやかにやる歓迎会である。
新人のK君。
普段ものすごくマジメな彼だが、お酒が入ると大好きな野球をアツク語り出し、普段絶対に見れないK君を見ることができた。
本当はこういうヤツなんだ。
彼にとって、いい意味で緊張のほぐれた会であったのではないかと思う。
どこの会社も同じだと思うが、新人は「飲め飲め」と言われどんどん飲まされる。
これはもう文化みたいなもんだろう。
当然K君もそれに応えてどんどん酒を飲み干す。
(あ~あぁ・・・ワインそんなに一気飲みしちゃって・・・。明日死ぬなコイツ(笑))
と心の中でニヤニヤしながらK君を見ていた。
しかし、最初絶好調だったK君。
ある時間から、いきなり無口になり顔色が悪くなりだした。
ボーダーラインを超えたようである。
店の中にぶちまかれては困るので、早急にトイレへ連れて行く。
K君、すでに千鳥足でまっすぐ歩けない。
ここから彼の長い
トイレバトルが始まったのである。
K君がトイレに入ってから20分ほどが経ち、そろそろ時間も遅いし帰るかぁ~ということになった。俺はK君を呼んでくるため、トイレに行った。
すると、さっきまでカギがかかっていなかった洋式のドアに、カギがかかっていたのである。中からは物音が一切聞こえない。
「おーい、そろそろ帰るぞ~!」
中にいるK君を呼んだが、反応がない。
壁をよじのぼって上からのぞくと、
完全にすわりこんでグッタリしているK君の姿があった。
俺はもう一度K君を呼んだ。
俺 「おーいK!大丈夫か~」
K君 「・・・・う・・・・」
俺 「だいじょうぶか~」
K君
「・・・だめです。重いです・・・」
だめだ。重いらしい。
他のメンバーは次の日仕事だったので、K君の状態を話し、先に帰っててもらうことにした。時刻は12時。ちょうど日付が変わった。
俺は一人で店内でK君がトイレから出てくるのを待つ。
店内でボーっとK君が出てくるのを待つ。けっこうヒマである。
平日の深夜ということもあり、お客さんは俺を除いておっさん一人しかいない。
唯一のお客さんであるそのおっさんは、延々と店員に仕事のグチをこぼしていた。
(こういうとこの店員ってゼッタイやりたくないな・・・。)
なんて思ってみたりして・・・。
そんなおっさんと店員のやり取りを見ていたら、時刻は12時半をまわった。
そろそろK君を引っ張り出さないとお店の人にも迷惑がかかってしまう。
再びトイレへ向かった。
「おーい、そろそろ出ようか!」
呼びかけてみた。
しかし反応はない。
中で完全に酔いつぶれて寝ているようだ。
K君を引っ張り出そうにもドアにカギがかかっていて中に入れない。
俺 「とりあえずカギだけあけてくれ~!」
すると、
K君 「ハイ!!」
ものすごくハッキリした返事が返ってきた。
(お、なんだ実は元気なのか?)
と、思いカギが開くのを待つ。
しかしK君が動く様子はない。
もう一度問いかける。
俺 「おーいK!か・ぎ・を・あ・け・て・く・れ!」
K君 「・・・ハイ!」
また歯切れよい返事が返ってきた。
でもカギをあけてはくれない。
まいったなぁ・・・。なんか長い棒で内側からカギをあけてやらないと・・・。
と考えていると、
「ガチャ・・・」
K君がカギをあけてくれた。
そこにはグッタリと座り込み、脂汗をダラダラ流しているK君がいた。
とりあえず水を飲ませ、がんばって立ち上がってもらった。
ようやくトイレから救出し、店長の心配そうな目線に見送られながら外へ出た。
あとは彼をタクシーに乗せないと・・・。
まともにあるけないK君を支えながら、なんとかタクシー乗り場へたどりついた。
俺 「タクシー、乗れるか?」
K君に尋ねた。
しかしK君。首をフルフルと横に振った。
乗れないらしい。困ったもんだ。
このまま無理矢理タクシーに押し込んで帰らせるという強攻策もあったのだが、運ちゃんに迷惑がかかると後々厄介だなぁ・・・と思い、とりあえず彼の自宅まで同乗することにした。
運ちゃんに行き先を伝え、タクシーは走り出した。
(たのむから車内で吐かないでくれよ~・・・)
願いをかけるようにK君の様子をうかがう俺。
しかしK君、脂汗ダラダラ顔は真っ青。
何回か「ウッ」となるときもあり、見てる俺も冷や汗ものだった。
(早く着いてくれ~・・・)
タクシー内の数分がものすごく長い時間に感じた。
途中、タクシーの運ちゃんが気を利かせて、窓をあけてくれた。
なんとか無事にK君の住む寮まで到着。
早急にK君に降りてもらった。
(ふぅ・・・よかったぁ・・・)
しかしここからが本当のハプニングの始まりだった。
無事K君をおろし、ホッとしながら運賃を支払っていると、
ドンッという鈍い音と共にタクシーが揺れた。
俺 「???・・・なに今の音」
すると運ちゃんが叫んだ。
「あぁぁぁぁぁ~!!」
叫んだまま運ちゃんは運転席を飛び出した。
状況が全く把握できてない俺は、ふとタクシーの左サイドミラーを見た。
すると、
サイドミラーが曲がってはいけない方向に曲がっていた のである。そのすぐそばには倒れこむK君が・・・。
俺の中で状況がやっと把握できた。
K君がタクシーをぶっこわしてしまった。
物損事故である。
事の重大さにようやく気づいた俺があわてて外へ出る。
外へ出て、運ちゃんがミラーの破損具合を確かめる。
ミラーが根元から
ぷらんぷらんになっている。
運ちゃん 「こりゃぁだめだ。弁償だな」
俺 「弁償・・・ですか・・・」
K君 「・・・す・・みません・・・商売道具を・・・」
朦朧としているK君だったが、一応自分がぶつかったことは覚えているらしい。
しかし、破損は
ミラーだけではなかった。
左サイドミラーのすぐ後ろの車体のボディーが、直径30cmくらいの大きな円でボッコリ陥没していたのである。それに気づいた運ちゃん、
「あららららららららららら!」
運ちゃん、あせってタクシーの無線をとり、本部に事情を伝えた。
本部からは、
「住所と名前と連絡先聞いといたほうがいいんじゃないですか?」
との返答だったようだ。
運ちゃんに紙とペンを渡され、K君に書かせる。
参考までに俺も書かされた。
俺が「まいったなぁ~・・・」とこぼすと運ちゃんはこう言った。
「まいったって、まいったのはこっちだよ!あーもうこれで今日は仕事できねぇや。どうしてくれんだよ~!一晩で4万は違うんだぞ!先月も車内で吐かれて大変な目にあったんだ。これでまた俺の給料減額だよ!ボーナスも減っちゃうし!生活できなくなっちまう!!」
運ちゃんかなりご立腹な様子。
グロッキーなK君に代わって俺は、
「はい、すみません・・・ご迷惑をおかけしました・・・」
と、ひたすらあやまるしかなかった。
しばらくすると警察官が二人来た。
一応物損事故ということなので、運ちゃんが呼んだようだ。
ベッコリ凹んだタクシーのボディーを見て、
「うわーすごいねこれ。蹴飛ばしたの?」
と聞かれた。
しかしK君が意図的に蹴飛ばすわけがない。
俺は、
「たぶん腰かなにかぶつけたんだと思います・・・」
と説明した。
警察 「とりあえず二人とも免許証見せてくれるかな」
と言われたので素直に提示。
ひさびさに警察官に免許証を見せた気がする。
決して気分のいいものではない。
まぁ意図的にやったわけではないので、警察の出る幕はあまりなかったようだ。
とりあえずタクシー会社に対して弁償をするという形になったので、二人の警察官は帰っていった。
運ちゃんの怒りも落ち着いた頃、ようやくK君も一人で立てるようになり、寮のエントランスまで見送った。誰も予想しなかったタクシー破損。新人のK君にはかなりイタイ出費となってしまうが、やってしまったものはしかたがない。
その影で、あのときタクシーに乗せた俺が悪かったのだろうか・・・と自分を責める俺がいた。いや、しかし俺の判断は間違っていなかったハズだ。そう信じたい。
K君を見送った後、俺も家へ帰るため、破損したタクシーに再び乗せてもらった。
さきほどまでご立腹だった運ちゃん。
「おたくも大変だね」
と同情された。
そして車内で世間話で盛り上がるうちに機嫌を直してくれたようだ。
酔った人の介抱、みなさんもくれぐれもお気をつけください。